手術支援ロボット da Vinci(ダヴィンチ)
限局前立腺がんに対する根治治療の一つに前立腺全摘術という手術があります。
これは前立腺と精嚢を摘出して、膀胱と尿道を吻合するという術式で、骨盤の深部における作業となるため比較的難易度が高い手術です。従来は臍下を縦切開する開放手術でしたが、低侵襲手術の流れの中で腹腔鏡下前立腺全摘術が登場しました。しかしながら吻合操作などの困難さもあって広く一般に普及するとまではいかない状況でした。
ところが2012年にロボット支援前立腺全摘術(RARP)が保険適用されると、またたく間に全国に広がり、前立腺がん手術の標準術式となっていきました。
そして2022年4月より当院でも手術支援ロボット「ダヴィンチ」による前立腺全摘術が開始されました。
ダビンチサージカルシステムは、医師が操作をするサージョンコンソール(操縦席)と、鉗子やメス、内視鏡などの手術器具を取りつける4本のアームのついたペイシェントカート(ロボット)、画像の収集や処理を行いサージョンコンソールに送るビジョンカートからなっています。
ロボット手術といっても、機械が自動的に手術を行うわけではありません。
患者さんのお腹にあけた小さな穴に手術器具を取り付けたロボットアームと 内視鏡を挿入し、医師がサージョンコンソールで内視鏡画像を見ながら手のハンドルや足元のフットスイッチを動かして遠隔操作で手術器具を操る仕組みです。
ダヴィンチには高解像度の3Dモニターが用いられており、術野を立体的に観察できるため肉眼と同等以上に良好な視野で手術が行えます。また、アームは7方向360°の可動性を有するため自分の手以上の自由度で器具を操ることができ、手ブレ防止機能やモーションスケーリング機能の助けもあり、より繊細で確実な操作が可能となります。それによって、制がん性については従来の開放手術と同等でありながら、より出血が少なく、入院期間が短縮、尿失禁が早期に改善するなどの利点を併せ持つことがこれまでの研究で明らかにされています。
ただ、当術式の場合は手術体位が極端な頭低位となるために、未治療脳動脈瘤や閉塞隅角緑内障の方には禁忌となっており、下腹部の手術歴がある方や高度の肥満がある患者さんも適さない場合があります。
ロボット支援手術は泌尿器科以外にも消化器外科、胸部外科、婦人科領域を中心に急速な広がりを見せており、2022年12月時点では計29術式が保険適用となっています。
今後は当院でも泌尿器科だけではなく他の診療科でも導入していき、地域がん診療連携拠点病院としての高い医療レベルを保てるよう努力していく所存です。