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リウマチ科/人工肘関節の ページ
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(長岡赤十字病院 リウマチ科医師 羽生忠正)

■■ 表面置換型(ステム付)人工肘関節 ■■

私たちは,ポリエチレンとの対摩耗性を生かし,日本人のサイズにあった,単結晶アルミナ・セラミック製のステムの付いた新しいデザインの人工肘関節Niigata-Senami-Kyocera (NSK)型と骨切りジグとを開発し1988年から使用を開始した。(図1)
図1

(図1)
そのデザインの特徴1)は,滑車部に前傾をつける代わりにステムを滑車部の後方1/3につけて回転中心を前方にもってきた点と,出来るだけ太いステムを髄腔に真直ぐ打ち込み,これをガイドに正確な骨切除を行い,上腕骨遠位端で広く支えるようにした点にある(図2)。
図2

(図2)
髄腔リーミングにより至適サイズのステムを挿入した後に遠位端およびステムの基部の骨切除を行うことで,骨切りの精度は向上し,その結果ステムの初期固定性が改善された。1998年5月より当初の目標であった生物学的な固定が期待できるチタン合金製ステムとセラミック製の滑車部からなり,術中に至適サイズ同士を選び組み合わせて使用するモジュラー・システムとなった(図3)。
図3

(図3)
上腕骨コンポーネントのステムは長さ65mm,径が8,9,10mmのチタン合金製で,溶射法による純チタンの粗面皮膜をもっている。滑車部はアルミナ・セラミック製で,サイズはスタンダードとワイドとがある。至適サイズ同士を術中にテーパー嵌合させて使用する。関節面は骨軸に対して外反を4°つけてあり,右用と左用とが用意されている。尺骨コンポーネントは超高分子ポリエチレンとチタン合金製ステムとの組み合わせであり,ステム径は10mm,長さは30mmで,外反が7°つけてある(図4)。
図4

(図4:スタンダードサイズ)

■■ ステム周囲の骨反応(図5−6) ■■

従来のNSK型をセメントレスで使用した症例の予後調査から,骨量、骨皮質が十分ある例でもステム周辺に反応層とインプラントの沈下を認めたが,前方の骨皮質を破るような例は認めていない2)ので,私たちのデザインは後上方への負荷を分散させていると考えている。今回採用されたチタンステムは溶射法により,内部欠損の少ない純チタンの粗面皮膜を形成し,単結晶アルミナステムに比べ直径が1 mm太くなっている。ステム周辺には術後1年以上経過しても骨透亮帯の出現をみていない。骨移植の有無に関係なくチタン溶射部に一致してspot weldsを認めた点から,初期固定性は以前に比べてさらに良くなったといえる3)
図5

(図5)

図6

(図6)

■■ 後 療 法 ■■

肘は膝関節と違って軟部組織が少ないので,術後2週間はギブス固定とし,その後,関節支持性の保護のため約3か月間は支柱付きの肘装具を装着させている。他動運動訓練は2週後から開始し,自動運動訓練は装具が出来上がった3週後から開始させている。(図7)
図7

(図7)

■■ 術後成績 ■■

NSK型TEA 100関節の調査で再置換ないし抜去は5関節で,その内訳は感染による抜去1関節,ゆるみによる再置換2関節,インプラントの折損による再置換1関節,脱臼による再置換1関節であった。Kaplan-Meire法により再置換ないし抜去をend pointとした場合のNSK型の生存率を算定すると、5年生存率は96%,10年生存率は93%であった3)(図8)。
図8

(図8)

ADLで必要な肘機能的可動域は伸展/屈曲-30/130°,回外/回内50/50°と報告されており,これを術後の目標値としている(図9)。
図9

(図9)

最近の手術症例20例について術後1年前後の可動域をみると伸展-23°屈曲132°であり,屈曲拘縮が残る率も低下し,日整会の肘機能評価点数も増加をみている。

■■ 手術適応と限界 ■■

関節リウマチ(RA)肘に対する人工肘関節置換術(TEA)の手術適応の第一は,上腕骨滑車の吸収・関節破壊が進むLarsen grade4) III以上で有痛性の不安定肘である(図10)。
図10

(図10)

一方,屈曲拘縮が40°以上,屈曲が120°以下,あるいはその両方とも制限のある有痛性拘縮肘での適応は,フローチャートに示すように考えている(図11)。
図11

(図11)

すなわち,両肘障害のため手が口に届かない場合の利き手は絶対適応であり,年齢が50歳以上でRA病型が少関節型以外であれば相対的適応である。逆に,50歳未満で肘に限局した少関節型や強直肘に対しては人工関節によらない関節形成術も一つの選択肢であることを患者に説明してきた。また,その成績を報告してきた5)

人工肘関節には,現在,表面置換型(ステム付)とsemi-constrained hinge type(遊びのある蝶番(ヒンジ)関節型)とがある。前者は肘の靭帯機能不全では脱臼につながる。私たちのNSK型使用の原則は,滑車が吸収されてしまっても内側ないし外側どちらかの顆部が残っていて,かつ靭帯の機能が期待できる場合である。骨移植に際しては回旋アライメントを考慮して上腕骨遠位端を形成し,均一なセメント層となるように工夫を行えば,再置換例やムチランス型の一部でもNSK型で再建が可能であった6)。しかし,以上の対策をしてもムチランス型では外傷を契機に,ステム周辺のゆるみではなく,靱帯あるいは軟部組織のゆるみにより関節動揺性が増してくる症例があるのも事実で,この辺が表面置換型の限界と考える。

一方,蝶番(ヒンジ)関節型の使用は,感染,転倒による骨折や回転軸のポリエチレンの摩耗(ブッシング)による関節近傍の骨吸収などの晩期合併症が危惧される。さらに再置換時のセメント抜去の困難さ,再建に必要な銀行骨が入手出来ないなどの問題から,このタイプの使用は表面置換型の再置換時や表面置換型での手術時期を逸したムチランス症例,すなわち靭帯機能不全例に限ると考えている6)

■■ おわりに ■■

RA肘は,滑膜切除の有無に関わりなく定期的なX線評価を続け,表面置換型によるTEAが難しい程度まで関節破壊が進むのを放置しないことが大切な点である。

■■ 文 献 ■■

1) 羽生忠正,ほか:ステム付きアルミナ・セラミック人工肘関節の開発とその近隔成績.日関外誌.9: 545-554,1990.
2) Hanyu, T., et al.: Total elbow arthroplasty with a non-constrained alumina ceramics prosthesis in patients who have rheumatoid arthritis. Orthop. Trans. 21: 286-287, 1997.
3) 羽生忠正:NSK型セラミック人工肘関節.整・災外 43: 785-793, 2000
4) Larsen, A., et al.: Radiographic evaluation of rheumatoid arthritis and related condition by standard reference films. Acta Radiol. Diagn. 418: 481-491, 1977.
5) Hanyu, T., et al.: Interposition elbow arthroplasty with dynamic joint distractor in patients who have rheumatoid arthritis. J. Jpn. Elbow Soc. 8: 47-48, 2001.
6) 羽生忠正,ほか:慢性関節リウマチに対して施行した人工肘関節の再置換術の検討.日本人工関節学会誌.29: 313-314, 1999.

(長岡赤十字病院 リウマチ科医師 羽生忠正)


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